アニマルウェルフェアの基本概念と意味

「アニマルウェルフェア」という言葉を聞いたことがありますか?

この言葉は日本ではまだ十分に認知されていませんが、世界的には畜産業を中心に急速に広がっている重要な概念です。アニマルウェルフェアとは、直訳すると「動物福祉」となり、人間と共に生きる動物たちが不必要なストレスなく健康に過ごせるよう、適切な飼育環境を提供することを意味します。

国際獣疫事務局(WOAH、旧OIE)では「動物が生きて死ぬ状態に関連した、動物の身体的および心的状態」と定義しています。つまり、動物が生まれてから死ぬまで、その動物らしい本能や機能を生かし、苦痛なく過ごせる環境を整えることなのです。

アニマルウェルフェアは単なる「かわいそう」という感情論ではありません。科学的根拠に基づいた動物の状態評価と、それを改善するための具体的な取り組みを指します。

動物愛護との違いを理解することも重要です。アニマルウェルフェアは畜産動物を対象に、人間による利用を前提としながらも、動物らしく快適に過ごせる環境を提供することを目指す、科学でエビデンスある改善です。一方、動物愛護は人間の感情的な可愛いやかわいそうと言う部分が主体です。

アニマルウェルフェアの「5つの自由」とは

アニマルウェルフェアの基本原則となるのが、1960年代にイギリスで確立された「5つの自由」です。これは動物が健康で幸福に生活するために必要な最低限の条件を示しています。

「5つの自由」は以下の通りです:

  • 空腹と渇きからの自由:新鮮な水と餌へのアクセスを確保し、健康と活力を維持できること
  • 不快からの自由:適切な環境(快適な休息場所や避難場所など)を提供すること
  • 痛み、外傷、病気からの自由:予防や早期診断、適切な治療によって健康を維持すること
  • 恐怖や抑圧からの自由:精神的苦痛を与えない環境や扱いを確保すること
  • 正常な行動を表現する自由:十分なスペース、適切な施設、同種の仲間との交流を提供すること

株式会社アニマルウェルフェアでは、これらの5つの自由を基本としながらも、さらに「喜び」の経験を増やし、QOL(Quality Of Life:生活の質)を向上させることを目標としています。

動物たちが本来持っている行動を自然に表現できる環境を整えることは、単に動物のためだけではなく、私たち人間にとっても様々なメリットをもたらします。

どのようなメリットがあるのでしょうか?

なぜ今アニマルウェルフェアが求められているのか

アニマルウェルフェアへの関心が高まっている背景には、いくつかの重要な要因があります。

まず、科学の発展により、動物も人間と同じように苦痛を感じる存在だという認識が広まってきました。19世紀頃から始まったこの認識の変化は、特に欧州を中心に、1990年代には法的な基準の整備へと発展しました。

また、持続可能な社会の実現、つまりSDGsの達成にもアニマルウェルフェアは深く関わっています。特に「目標2:飢餓をゼロに」や「目標8:働きがいも経済成長も」、「目標12:つくる責任つかう責任」などの達成に貢献するとされています。

国際的な動向も見逃せません。欧米を中心に、アニマルウェルフェアへの取り組みが進み、それが国際的な取引条件にもなりつつあります。日本の畜産業も国際競争力を維持するためには、この流れに対応する必要があるのです。

さらに、消費者の意識も変化しています。食の安全や倫理的な生産方法への関心が高まり、アニマルウェルフェアに配慮した商品を選ぶ消費者が増えています。

アニマルウェルフェアの向上は、実は生産者にとっても多くのメリットがあります。動物のストレスが軽減されれば病気になりにくくなり、薬剤(特に抗生物質)の使用量を減らせます。これは薬剤耐性菌の発生抑制にもつながり、人間の健康にも良い影響を与えるのです。

また、アニマルウェルフェアに配慮した環境で育った動物からは、より健康的で美味しい食材が得られることも分かってきました。

日本と世界のアニマルウェルフェアの現状

世界的に見ると、アニマルウェルフェアへの取り組みは欧州が最も進んでいます。EU諸国では1990年代からアニマルウェルフェアの基準が法的に定められ、畜産生産者に改善を求めてきました。

例えば、EU諸国では採卵鶏のケージ飼育の禁止や、妊娠豚のストール(狭い檻)飼育の制限など、具体的な規制が導入されています。

一方、日本ではアニマルウェルフェアへの取り組みは世界に比べて遅れていると言わざるを得ません。その理由としては、以下のような点が挙げられます:

  • 取り組みには資金が必要であり、すでに厳しい経営環境にある日本の畜産農家にとって負担が大きい
  • 消費者の認知が進んでおらず、アニマルウェルフェア対応商品の価値が十分に理解されていない
  • アニマルウェルフェアに関する研究やデータが少なく、科学的根拠に基づいた取り組みが難しい

しかし、日本でも徐々に変化の兆しが見えています。農林水産省は畜産技術協会と協力して「アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の飼養管理指針」を作成し、2023年7月には国際基準であるWOAHコードに沿った「新たな国の指針」を発出しました。

また、株式会社アニマルウェルフェアのような専門企業も登場し、アニマルウェルフェアの認証や普及活動を行っています。同社はWOAH(国際獣疫事務局)のアニマルウェルフェアコードに準拠しながら、日本の畜産環境に合わせた自社基準を作成し、AWのISO認証の付与を目指しています。

消費者の間でも「平飼い卵」や「放牧肉」などのアニマルウェルフェアに配慮した商品への関心が少しずつ高まっています。

しかし、日本でアニマルウェルフェアを本格的に普及させるためには、生産者、消費者、企業、行政など、様々な立場からの協力が不可欠です。

アニマルウェルフェアを実践するための具体的方法

アニマルウェルフェアの「5つの自由」を実現するための具体的な取り組みを見ていきましょう。

1. 空腹・渇きからの自由を確保する方法

動物が健康を維持するためには、適切な栄養と十分な水が不可欠です。具体的には以下のような取り組みが重要です:

  • 清潔で新鮮な水を常に利用できるようにする
  • 動物の種類、年齢、体重に応じた適切な栄養バランスの餌を与える
  • 餌箱や水飲み場は十分な数を設置し、すべての動物がアクセスできるようにする
  • 自動給餌・給水システムを定期的に点検し、故障がないか確認する

2. 不快からの自由を確保する方法

動物が快適に過ごせる環境を整えることも重要です:

  • 適切な温度・湿度・換気を維持する
  • 十分な広さと清潔な寝床を提供する
  • 適切な照明と暗期(休息のための暗い時間)を確保する
  • 騒音を最小限に抑える
  • 天候の影響から保護するための避難場所や日陰を提供する

3. 痛み・外傷・疾病からの自由を確保する方法

動物の健康管理も欠かせません:

  • 定期的な健康チェックと獣医師による診察
  • 予防接種や寄生虫対策などの予防医療
  • 怪我や病気の早期発見と適切な治療
  • 必要な外科的処置(去勢など)を行う場合は、痛みを最小限に抑える方法を採用
  • 飼育施設に危険な箇所がないか定期的に点検

4. 恐怖・抑圧からの自由を確保する方法

動物の精神的健康も身体的健康と同様に重要です:

  • 動物をやさしく扱い、不必要なストレスを与えない
  • 動物の取り扱いや移動の際は、低ストレスの方法を採用
  • 見知らぬ動物との突然の接触を避ける
  • 飼育者と動物の間に良好な関係を構築
  • 大きな音や急な動きなど、動物を驚かせる要因を減らす

5. 正常な行動を表現する自由を確保する方法

動物が本来持っている行動を表現できる環境を整えることも大切です:

  • 十分な広さと適切な構造の飼育スペースを提供
  • 同種の仲間との社会的交流の機会を確保
  • 探索行動や採食行動などの自然な行動ができる環境を整備
  • 豚の場合は土を掘る行動、鶏の場合は砂浴び行動など、種に特有の行動ができる設備を提供
  • 適切な環境エンリッチメント(環境を豊かにする工夫)を行う

これらの取り組みは、一度にすべてを完璧に実施することは難しいかもしれません。しかし、できることから少しずつ改善していくことが大切です。

アニマルウェルフェアがもたらす多面的なメリット

アニマルウェルフェアの向上は、動物だけでなく、生産者、消費者、そして環境にも様々なメリットをもたらします。

生産者へのメリット

アニマルウェルフェアに取り組むことで、生産者は以下のようなメリットを得ることができます:

  • 動物の健康状態が改善され、病気や死亡率の低減につながる
  • 薬剤(特に抗生物質)の使用量を減らせるため、コスト削減になる
  • 生産性の向上(例:ストレスの少ない乳牛はより多くの乳を生産する)
  • ブランド価値の向上による商品の差別化と付加価値の創出
  • 従業員のプロ意識の向上と職場環境の改善
  • 優秀な人材の確保と定着率の向上

株式会社アニマルウェルフェアでは、農場や畜産事業者向けに「AW審査認定」を行い、認証を受けた事業者はHPや商品パッケージに認証マークを表示できるため、ブランド価値の向上が見込めます。また、認証取得に向けたコンサルティングも提供しています。

消費者へのメリット

消費者にとっても、アニマルウェルフェアに配慮した商品を選ぶことには多くのメリットがあります:

  • より安全で健康的な食品を得られる(抗生物質の使用量減少など)
  • より美味しい食品を楽しめる(ストレスの少ない環境で育った動物の肉や卵は風味が良いとされる)
  • 倫理的な消費行動による満足感
  • 食品の生産背景に関する透明性の向上

株式会社アニマルウェルフェアでは、一般消費者向けにAW認証を受けた製品を販売するオンラインショップも運営しています。

環境へのメリット

アニマルウェルフェアの向上は環境保全にも貢献します:

  • 薬剤使用量の減少による水質汚染の軽減
  • 薬剤耐性菌の発生抑制
  • 持続可能な畜産システムの構築
  • 資源の効率的利用

このように、アニマルウェルフェアは「人」「動物」「地球環境」の健康と幸福に貢献する、まさに三方よしの取り組みと言えるでしょう。

アニマルウェルフェアの実践に向けた第一歩

アニマルウェルフェアの実践に向けて、それぞれの立場でできることを考えてみましょう。

生産者ができること

畜産業に携わる方々は、以下のような取り組みから始めることができます:

  • アニマルウェルフェアに関する知識を深める(セミナーや講習会への参加など)
  • 現在の飼育環境を「5つの自由」の観点から見直す
  • できることから少しずつ改善を進める
  • 専門家(獣医師など)のアドバイスを受ける
  • アニマルウェルフェア認証の取得を検討する

株式会社アニマルウェルフェアでは、アニマルウェルフェアに関する講座や資格制度も提供しています。また、AW認定獣医師による審査・認証サービスも行っています。

消費者ができること

一般の消費者の方々も、以下のような行動でアニマルウェルフェアの普及に貢献できます:

  • アニマルウェルフェアについて学び、理解を深める
  • 可能な範囲でアニマルウェルフェアに配慮した商品を選ぶ
  • 「平飼い卵」「放牧肉」などのラベルの意味を知る
  • 食品の生産背景に関心を持ち、情報を収集する
  • アニマルウェルフェアの取り組みを行っている生産者や企業を応援する

企業ができること

食品関連企業や小売業などの企業も重要な役割を担っています:

  • アニマルウェルフェアに配慮した原材料の調達
  • アニマルウェルフェア認証商品の開発と販売
  • 消費者への情報提供と啓発活動
  • 生産者のアニマルウェルフェア向上の取り組みをサポート
  • ESG投資の観点からアニマルウェルフェアを企業価値向上に活用

株式会社アニマルウェルフェアでは、食品メーカー向けに「AW認定商品開発支援」を実施し、AW認証を受けた食材を使った商品コンセプトの提案や、企業のAW取り組みへのコンサルティングを行っています。

アニマルウェルフェアの実現は、一人の力だけでは難しいかもしれません。しかし、それぞれの立場でできることを少しずつ実践していくことで、大きな変化を生み出すことができるのです。

人と動物と地球環境が健康で笑顔になれる社会の実現に向けて、今日からできることを始めてみませんか?