アニマルウェルフェア牛乳とは?基本を理解しよう

「アニマルウェルフェア牛乳」という言葉を聞いたことがありますか?

アニマルウェルフェアとは「動物福祉」と訳され、人間と共に生きる動物たちが不必要なストレスなく健康に過ごせるよう、適切な飼育環境を提供することを指します。つまり、牛の幸せを第一に考えた「適切な飼い方」から生まれた牛乳なのです。

近年、この考え方は世界中で広がりを見せています。特に欧米では、アニマルウェルフェアに配慮した畜産物がスーパーの棚に並ぶことが当たり前になってきました。

アニマルウェルフェアの基本原則は「5つの自由」です。

  • 空腹・渇きからの自由
  • 不快からの自由
  • 痛み・外傷・病気からの自由
  • 本来の行動がとれる自由
  • 恐怖・抑圧からの自由

株式会社アニマルウェルフェアでは、これら5つの自由を基本としながら、さらに「喜び」の経験を増やし、牛のQOL(Quality Of Life:生活の質)を向上させることを目標にしています。

では、そんな環境で育った牛から搾られる牛乳は、一般的な牛乳と比べてどのような違いがあるのでしょうか?


アニマルウェルフェア牛乳の味わいの特徴

牛が喜び走り出す!

東京・吉祥寺にある「武蔵野デーリー CRAFT MILK STAND」では、全国30ヵ所以上の牧場から時期に合わせてセレクトした「クラフトミルク」を提供しています。店を運営する木村充慶さんは、放牧による牛乳のおいしさをこう語ります。

「自然放牧を行なっている牧場でも、牛舎に入れることもあれば、穀物飼料も使うのが一般的。でも、玉名牧場は牛舎がなく、草のみを食べさせるストイックな放牧です。草の風味や、野性味の感じられる牛乳ですよ。」

一方で、「菊地ファームは、いまどきの言葉で言うと『アニマルウェルフェア』を実践していて、無理に牛を外に出さない。牛舎と牧草地とを自由に行き来できるようにして、牛のストレスを減らしているんです」と説明します。

このように、アニマルウェルフェア牛乳と一口に言っても、牧場によって飼育方法や哲学が異なり、それぞれ独自の味わいを持っています。

あなたは牛乳の味の違いを感じたことがありますか?

実は、アニマルウェルフェアに配慮された環境で育った牛の牛乳には、いくつかの特徴があるのです。

  • 風味が豊かで自然な甘みがある
  • 季節によって味わいが変化する
  • 牧草を食べた牛の牛乳は草の風味が感じられることも
  • ストレスの少ない牛からは健康的な牛乳が得られる

「おいしいとされる牛乳は濃くて甘いという思い込みがありましたが、放牧牛乳はあっさりしているのに風味が豊か。これなら飲める」と感じる人も多いようです。


牛乳の種類と製法による味の違い

アニマルウェルフェアだけでなく、牛乳の味わいは牛の種類や製法によっても大きく変わります。

日本の乳牛は約99%が白黒模様でおなじみのホルスタイン種です。一方、茶色い毛並みが特徴のジャージー種は全体の約0.8%、約1万頭しか飼育されていません。

ジャージー牛乳はホルスタインと比較して、乳脂肪分が多く(約5%)、乳タンパク質も豊富です。カルシウムは一般的な牛乳の約1.3倍にもなります。このように栄養価が高いため、甘みやコクを感じる濃厚な味わいが特徴です。

毎日飲む牛乳で沢山栄養を摂りたい方や香り、味が濃い方が好きな方にはジャージー牛乳が、さっぱりした味がお好きな方はホルスタインの牛乳がおすすめです。

ノンホモ牛乳とパスチャライズ製法

牛乳の味わいを左右するもう一つの要素が製法です。

ノンホモ牛乳は、ホモジナイズ(生乳に含まれる脂肪球を細かくして均質化する工程)をしていない、より生乳に近い風味が楽しめる牛乳です。搾ったままの生乳は、脂肪球の大きさが不揃いなため、そのままにしておくと乳脂肪分が上部に浮き上がってきます。

市販の牛乳の多くは、これを防ぐためにホモジナイズ処理がされていますが、この処理をしない牛乳が「ノンホモジナイズ(ノンホモ)牛乳」です。静かにおいておくと、上部にクリーム層ができるのが特徴です。

また、殺菌方法も味に大きく影響します。日本で流通する牛乳の9割以上がUHT製法(超高温殺菌法)ですが、欧米では低温殺菌(LTLT製法やHTST製法)が主流です。

低温殺菌された「パスチャライズド牛乳」は、「牛乳が苦手だったけどゴクゴク飲めた!」「サラっとして飲みやすかった!」「コクがあるのにあっさり!」という声が多く、生乳本来の味わいを楽しめます。


A2ミルクという選択肢

学校給食などで牛乳反対の人が良く言うのが乳糖不耐性の問題ですが、大人と子供でラクトースの分解能力自体が異なるのですが、確かにお腹が緩くなる人も居ます。そんな中で、最近注目を集めているのが「A2ミルク」です。

牛乳に含まれるタンパク質、β(ベータ)カゼインはA1型(A1A1型、A1A2型)とA2型(A2A2型)の2種類に分けられます。βカゼインは209のアミノ酸の繋がりでできていますが、67番目のアミノ酸の違いでA1とA2に分かれるのです。

  • βカゼインA1型・・・67番目のアミノ酸がヒスチジン
  • βカゼインA2型・・・67番目のアミノ酸がプロリン

ほんの僅かな違いですが、A1型のβカゼインは、消化酵素の作用で生じる特定のペプチド(アミノ酸が結合したもの)が消化器系の不快感に関係するという報告があります。一方、A2型のβカゼインはそのペプチドを生成しません。

そのため、β(ベータ)カゼインA1型が原因で消化不良を起こしてしまう人は、A2ミルクなら飲める可能性が高いのです。

味や風味は一般的な牛乳と同じなので、A1タイプかA2タイプかを味で判断することはできません。A2ミルクを飲んでみたいという方は、一般的な牛乳を選ぶ時と同じように風味が好みのものから選ぶと良いでしょう。

ジャージー牛はA2型の遺伝子を持つ牛が6~7割ほどいるため、A2ミルクを探している方はジャージー牛乳から探してみるのも一つの方法です。


アニマルウェルフェア牛乳がもたらすメリット

アニマルウェルフェアの取り組みは、動物だけでなく私たち人間にも多くのメリットをもたらします。

健康と味わいの向上

AWの取り組みにより、動きやすくストレスの少ない環境で育った動物の肉や卵やミルクは、健康的で味も美味しくなります。

その健康的な食材をいただくことで、私たち人間の食事も健康的で安全になっていきます。健康に育てることは、薬(特に抗生物質)の使用量を減らすことで薬剤耐性菌の発生を減らし、資源の無駄も無く、効率的で、地球環境にもやさしくなります。

生産者と消費者の絆

国際基準をしっかりと学びAW認定資格を取得した専門獣医師が「育て方(飼い方)」の品質を担保することで、畜産業者にとっても信頼性やブランド価値の向上につながります。

また動物のことを真摯に考え向き合う事で、従業員のプロ意識も上がり、畜産業はさらにやりがいのある仕事となります。企業イメージの向上にも寄与し、結果的に働きやすい職場づくりにつながり、求人でもより意識の高い優秀な人材が集まり、畜産業や企業の発展にもつながります。

消費者としても、自分が飲む牛乳がどのような環境で育った牛から搾られたものなのかを知ることで、より深い食への理解と感謝の気持ちが生まれるでしょう。


日本における課題と未来

日本の酪農業界では、アニマルウェルフェアの取り組みがまだ十分に広がっているとは言えません。

農林水産省の調査によると、日本では7割以上の酪農家が全く牛を運動させていないという現状があります。多くの牛は、狭い牛舎の中で、また首をつながれたままで、アメリカ産の輸入穀物を主原料とする配合飼料を食べています。栄養価が高いので乳量が上がるからです。

しかし、気候変動の影響で、飼料のトウモロコシ価格は今後ますます高騰することが予想されます。円安の影響もあり、このまま輸入飼料に依存した経営を続けていると、日本の酪農は大打撃を受ける可能性があります。

専門家は「いまこそ放牧型酪農に転換すべきだ」と指摘しています。

日本でアニマルウェルフェアが普及しにくい理由にはさまざまな要因がありますが、国民の畜産や農業に対する理解や教育も大きいでしょう。

しかし、消費者の意識は確実に変化しています。エーリック(農畜産業振興機構)が2021年に実施した調査によると、日本では12%の人が牛乳・乳製品を全く摂取しないと回答しており、その理由として「味が好きではないから」「健康・安全面などの理由」が多く挙げられています。

また、「環境への負荷が大きいと思うから」「動物がかわいそうだと思うから」という理由も一定数存在します。

こうした消費者の意識変化に応えるためにも、アニマルウェルフェアに配慮した酪農の普及は今後ますます重要になってくるでしょう。


まとめ:アニマルウェルフェア牛乳を選ぶということ

アニマルウェルフェア牛乳の味わいは、牛の種類、飼育方法、製法によって多様です。放牧された牛の牛乳は風味豊かでありながらさっぱりとした味わい、ジャージー牛の牛乳は濃厚で栄養価が高いという特徴があります。

また、ノンホモ牛乳や低温殺菌(パスチャライズド)牛乳は、より生乳に近い自然な風味を楽しむことができます。A2ミルクは消化に優しい特性を持ち、牛乳が苦手な方にも選択肢を提供しています。

アニマルウェルフェア牛乳を選ぶことは、単においしい牛乳を楽しむだけでなく、動物の幸せ、環境への配慮、そして私たち人間の健康にもつながる選択です。

牛乳とひとくちに言っても、こんなにいろいろあるんだよってことを知ってもらいたい。

あなたも次回、牛乳を選ぶときには、その牛乳がどのような環境で育った牛から搾られたものなのか、少し考えてみてはいかがでしょうか。

アニマルウェルフェアに配慮した牛乳は、牛も人も地球も幸せにする、未来への一歩なのかもしれません。

より詳しい情報や認証制度については、株式会社アニマルウェルフェアのウェブサイトをご覧ください。アニマルウェルフェアの取り組みを通じて、「人」「動物」「地球環境」が健康で笑顔になる社会を一緒に目指しましょう。