
アニマルウェルフェアと気候変動の関係性とは
私たちが口にする肉や卵、乳製品。その裏側で、動物たちがどのような環境で育てられているか考えたことはありますか?
アニマルウェルフェア(動物福祉)と気候変動。一見別々の問題のように思えるこの2つは、実は密接に関連しています。近年の研究では、家畜の飼育環境を改善することが、地球温暖化対策にもつながることが明らかになってきました。
世界動物保健機構(WOAH、旧国際獣疫事務局OIE)によれば、アニマルウェルフェアとは「動物の生活や死の状況に関連した動物の身体的および精神的状態」を意味します。つまり、動物が不必要なストレスなく健康に過ごせる環境を整えることなのです。

特に工業的畜産における過密飼育は、動物のストレスを高めるだけでなく、気候変動の一因ともなっています。効率優先の畜産システムは、森林破壊や温室効果ガスの排出増加につながり、地球環境に大きな負荷をかけているのです。
アニマルウェルフェアの基本原則「5つの自由」
アニマルウェルフェアの基本となるのが「5つの自由」です。これは動物が健康で幸福に生活するために最低限必要な条件とされています。
株式会社アニマルウェルフェアでは、この5つの自由を基本原則として、日本の畜産環境に合わせた独自の基準を作成し、AWのISO認証付与を目指しています。
- 空腹・渇きからの自由:適切な食事と新鮮な水の確保
- 不快からの自由:適切な環境と休息場所の提供
- 痛み・外傷・病気からの自由:予防と迅速な治療
- 本来の行動がとれる自由:十分なスペースと適切な施設の提供
- 恐怖・抑圧からの自由:精神的苦痛を避ける条件の確保
これらの自由を保障することは、単に動物のためだけではありません。株式会社アニマルウェルフェアが掲げるように、「喜び」の経験を増やし、QOL(生活の質)を向上させることで、より健康的な食材の生産にもつながるのです。
あなたは毎日口にする食べ物が、どんな環境で育った動物から得られているか、考えたことがありますか?
気候変動とアニマルウェルフェアの密接な関係
工業的畜産と気候変動の関係は、想像以上に深刻です。高密度飼育を行う大規模な畜産施設は、温室効果ガスの主要な排出源となっています。

2020年に発表された国連環境計画(UNEP)のレポートによると、人獣共通感染症の発生に関わる要因として、動物性タンパク質に対する需要増加や持続不可能な農業の強化が挙げられています。これらは気候変動とも密接に関連しているのです。
特に注目すべきは、アニマルウェルフェアを向上させることが、気候変動対策にもつながるという点です。アニマルウェルフェアに配慮した飼育方法は、動物のストレスを減らし、健康状態を改善するだけでなく、環境負荷の軽減にも貢献します。
鳥インフルエンザと過密飼育の問題
日本では2020年11月から鳥インフルエンザが猛威を振るい、17県51事例にのぼる感染が確認されました。殺処分された鳥は935万羽にも達し、過去最高となりました。
この背景には、効率優先の過密飼育があります。日本は一人あたりの卵消費量が世界第2位の大国で、大量の卵を生産するために採卵鶏を極めて狭いケージ(バタリーケージ)に閉じ込めて飼育しています。
このような環境は、ウイルスの繁殖と変異の温床となりやすく、一度感染が起きると膨大な数の鳥に広がります。さらに危険なのは、大量に増殖を繰り返す間に、人にも感染する危険なウイルスが発生するリスクが高まることです。
あなたの食卓にある卵は、どんな環境で育った鶏から得られたものでしょうか?
世界と日本のアニマルウェルフェアへの取り組み
アニマルウェルフェアへの取り組みは、世界各国で進んでいます。特にEUでは2012年に極狭のバタリーケージ飼いを禁止する決定がなされ、国際機関による基準も飼育環境の向上を目指す方向に進んでいます。

日本でも近年、アニマルウェルフェアへの関心が高まっています。2022年には農林水産省の報告書で、国内の食品関連企業が直面するESG課題として「アニマルウェルフェア」が挙げられました。
全農グループは「全農グループ アニマルウェルフェアポリシー」を制定し、畜産酪農分野のサステナビリティ重要課題として「気候変動対策」「資源循環・耕畜連携」「アニマルウェルフェア」の3つを特定しています。
先進的な取り組み事例
2025年4月に発表された「アニマルウェルフェアアワード2025」では、自社で放牧養鶏に取り組み、平飼い卵の安定調達を目指すシャトレーゼや、ケージフリー卵の市場拡大に寄与したキユーピーが表彰されました。
キユーピーは2024年に欧米で使うすべての卵をケージフリーに切り替え、グローバルでは2027年までにマヨネーズに使用する卵を20%ケージフリーにする目標を掲げています。日本では2030年までにマヨネーズに使用する卵の20%相当量をケージフリーで調達することを目指しています。
また、豚の飼育においても、七星食品が妊娠ストールフリー(妊娠中の母豚を狭い檻に拘束しない飼育方法)に取り組むなど、アニマルウェルフェアを考慮した飼育方法への転換が進んでいます。
こうした取り組みは、動物のストレスを減らすだけでなく、抗生物質の使用量削減にもつながり、薬剤耐性菌の発生抑制や環境負荷の軽減にも貢献しています。
アニマルウェルフェアがもたらす多面的なメリット
アニマルウェルフェアの向上は、動物だけでなく人間や地球環境にも大きなメリットをもたらします。

人間の健康と食の安全性向上
AWに配慮した環境で育った動物の肉・卵・ミルクは、健康的で味も美味しくなります。株式会社アニマルウェルフェアが指摘するように、健康に育てることは、薬(特に抗生物質)の使用量を減らすことで薬剤耐性菌の発生を抑制し、人間の食の安全性向上にも貢献します。
ストレスの少ない環境で育った動物は免疫力が高く、病気になりにくいため、抗生物質などの投薬が少なくて済みます。これは人間の健康にも直結する重要な点です。
環境負荷の軽減と持続可能性
アニマルウェルフェアに配慮した飼育方法は、資源の無駄を減らし、温室効果ガスの排出削減にもつながります。過密飼育を避け、適切な環境で動物を育てることで、飼料や水、エネルギーの効率的な利用が可能になります。
また、家畜の排泄物による環境汚染も軽減され、地域の生態系保全にも貢献します。これは気候変動対策としても重要な意味を持っています。
ビジネス価値の向上
畜産業者にとっても、AW認定によりブランド価値や信頼性の向上につながるメリットがあります。株式会社アニマルウェルフェアが提供するAW審査認定サービスを受けることで、HPや商品パッケージに認証マークを表示できるようになり、消費者からの支持を得やすくなります。
また、動物のことを真摯に考え向き合うことで、従業員のプロ意識も向上し、職場環境の改善や優秀な人材確保にもつながります。企業イメージの向上は、ESG投資に敏感な投資家からの評価も高めます。
あなたは食品を選ぶとき、どんな基準で選んでいますか?価格だけでなく、その裏側にある生産過程にも目を向けてみませんか?
私たちにできるアクション
アニマルウェルフェアと気候変動対策に貢献するために、私たち一人ひとりができることは少なくありません。
消費者としてできること
まず、食品を選ぶ際にアニマルウェルフェア認証を受けた製品を選ぶことが大きな一歩となります。認証マークのついた商品を選ぶことで、適切な飼育環境で育てられた動物由来の食品を購入できます。
また、食品ロスを減らすことも重要です。2025年4月に出版された「私たちは何を捨てているのか ―食品ロス、コロナ、気候変動」という本でも指摘されているように、食料価格の高騰が続く中、食品ロスを減らすことは環境負荷の軽減につながります。
企業や生産者の取り組み
企業や生産者は、株式会社アニマルウェルフェアが提供するようなAW認証の取得や、飼育環境の改善に取り組むことができます。AW認定獣医師による審査を受け、認証を取得することで、ブランド価値の向上にもつながります。
また、食品メーカーは、AW認証を受けた食材を使った商品開発に取り組むことで、消費者の支持を得るとともに、ESG投資にも対応できるようになります。
社会全体での意識向上
アニマルウェルフェアについての正しい知識を広めることも重要です。株式会社アニマルウェルフェアが提供する「アニマルウェルフェア講座」や「アニマルウェルフェア資格」などを活用し、正しい知識を身につけることができます。
地球環境と生きものと人の健康は、互いに関連しあう一体のものです。アニマルウェルフェアの向上は、気候変動対策にもつながる重要な取り組みなのです。
私たちの食の選択が、動物の幸せと地球の未来を左右している。
まとめ:持続可能な未来のために
アニマルウェルフェアと気候変動は密接に関連しています。動物の福祉を向上させることは、動物だけでなく、人間の健康や地球環境の保全にもつながる重要な取り組みです。
世界的には、EUを中心にアニマルウェルフェアへの取り組みが進んでおり、日本でも徐々に認知度が高まっています。シャトレーゼやキユーピーなどの企業が先進的な取り組みを行い、評価されています。
私たち一人ひとりも、食品の選択を通じてアニマルウェルフェアに貢献することができます。認証マークのついた商品を選ぶことで、適切な飼育環境で育てられた動物由来の食品を購入し、持続可能な未来への一歩を踏み出せるのです。
アニマルウェルフェアの向上は、動物の「5つの自由」を保障するだけでなく、気候変動対策にも貢献する重要な取り組みです。私たちの選択が、動物と地球の未来を左右しているのです。
アニマルウェルフェアについてもっと詳しく知りたい方は、株式会社アニマルウェルフェアのウェブサイトをご覧ください。専門家による認証や講座、資格取得など、様々なサービスを提供しています。