
アニマルウェルフェアと薬剤耐性菌の意外な関係性
あなたは「アニマルウェルフェア」という言葉を聞いたことがありますか?
動物の幸せや福祉を意味するこの概念が、実は私たち人間の健康と密接に関わっていることをご存知でしょうか。特に近年大きな問題となっている「薬剤耐性菌」との関係は、私たちの未来を左右する重要な課題となっています。
薬剤耐性菌は、かつては効果があった抗生物質が効かなくなった細菌のことです。このまま対策を講じなければ、2050年には世界で年間1000万人が薬剤耐性菌によって命を落とすとも言われています。これは現在のがんによる死亡者数を上回る数字です。
私は畜産環境の改善に取り組む中で、動物の幸せと人間の健康が想像以上に結びついていることに気づきました。この記事では、アニマルウェルフェアの視点から薬剤耐性菌問題にどう取り組むべきか、最新の知見と共に解説します。

アニマルウェルフェアとは?基本理念と「5つの自由」
アニマルウェルフェアとは、日本語で「動物福祉」と訳され、人間と共に生きる動物たちが不必要なストレスなく健康に過ごせるよう、適切な飼育環境を提供することを指します。
この考え方の基本となるのが、1960年代にイギリス政府が提唱した「5つの自由」です。これは後にアニマルウェルフェアの基本理念となり、世界的な影響を与えました。
「5つの自由」は以下の内容です:
- 空腹・渇きからの自由:新鮮な水や栄養バランスの取れた餌へのアクセス
- 不快からの自由:適切な環境や休息場所の提供
- 痛み・外傷・病気からの自由:予防や早期治療による健康維持
- 本来の行動がとれる自由:十分な空間や仲間との交流機会の確保
- 恐怖・抑圧からの自由:精神的苦痛を避ける飼育条件の整備
株式会社アニマルウェルフェアでは、これら5つの自由を基本としながらも、さらに「喜び」の経験を増やし、動物のQOL(生活の質)向上を目指しています。WOAH(国際獣疫事務局、旧OIE)のアニマルウェルフェアコードに準拠した自社基準を作成し、日本の畜産環境に合わせた取り組みを推進しているのです。
実は、このアニマルウェルフェアの考え方が、薬剤耐性菌問題の解決にも大きく貢献する可能性があるのです。

深刻化する薬剤耐性菌問題と畜産の関係
薬剤耐性菌(AMR:Antimicrobial Resistance)とは、抗菌薬が効かなくなった細菌のことです。1980年代以降、世界的に薬剤耐性菌が増加し、人間と動物の健康に深刻な脅威をもたらしています。
なぜ薬剤耐性菌が増えているのでしょうか?
その大きな原因の一つが、畜産における抗生物質の過剰使用です。世界の抗菌剤使用量の約4分の3が畜産動物に使われており、人間にとっても重要な薬剤が多く含まれています。特に急速に大規模化してきた工場型畜産が、薬剤耐性菌増加の主要因と言われています。
病気の治療目的ではなく、成長促進や予防目的で日常的に飼料に抗生物質を混ぜる習慣が、薬剤耐性菌を生み出す温床となっているのです。こうして生まれた薬剤耐性菌は、肉を通して人間の体内に入り込んだり、環境中に広がったりします。
恐ろしいことに、90度の熱でも死なない薬剤耐性菌も存在し、堆肥に混ざって広がることもあります。さらに薬剤耐性菌はどんどん「スーパー化」する能力を持っており、誰一人安心ではない状況です。
世界銀行は、薬剤耐性菌が2050年までに2800万人を極度の貧困に追いやる可能性があると推定しています。皮肉なことに、医薬品業界にとっては多大な経済効果をもたらし、薬剤耐性菌市場の年平均成長率は4.7%で、2030年以降の年間経済的影響は1兆米ドルを超えると推定されています。
では、この問題にどう対処すべきなのでしょうか?
アニマルウェルフェアが薬剤耐性菌対策の鍵となる理由
「抗生物質フリー」という言葉をよく耳にしますが、これは実は間違った方向性かもしれません。
成長促進目的の抗生物質投与は確かに禁止すべきですが、何の対策もせず現在の過密飼育のままですべての抗生物質使用を禁止すれば、病気の蔓延を招き、動物が次々と死んでしまうでしょう。人間と同様、動物も適切な医療にアクセスできる必要があるのです。
ここで重要なのが「抗生物質の責任ある使用」という考え方です。WOAH(旧OIE・世界獣疫事務局)もFAO(国際連合食糧農業機関)もこの方針を推奨しています。
英国の王立薬剤師会は、「責任ある使用」をこう説明しています:
畜産施設をアップグレードし、免疫力を向上させ、病気の負担を軽減し、動物をより効果的に治療する方法に関する知識を共有することで、福祉を損なうことなく農業における抗生物質の削減、改良、交換を実現できる。
つまり、アニマルウェルフェアは抗生物質使用量削減のために必須なのです。ヨーロッパ獣医師連盟も「良好な動物福祉と抗生物質使用の減少との間に正の関連がしばしば見られる」と明言しています。手入れが行き届き、適切に飼育されている動物は、感染症にかかりにくく、抗生物質の必要性も少なくなるのです。
日本政府はなぜか薬剤耐性菌とアニマルウェルフェアの関係性を認めようとしない傾向がありますが、世界的には両者の関連は常識となっています。アニマルウェルフェアを向上させることは、薬剤耐性菌問題解決の重要な一歩なのです。

日本と世界のアニマルウェルフェア取り組み比較
世界と日本のアニマルウェルフェアへの取り組みには、大きな差があります。特に採卵鶏の飼育方法に顕著な違いが見られます。
採卵鶏の飼育方法は大きく分けて3つあります:
- バタリーケージ:狭いケージを何段も重ねて多数の鶏を飼育する方法
- エンリッチドケージ:バタリーケージを改良し、止まり木などを設置したもの
- 平飼い・放牧:鶏が自由に動き回れる環境で飼育する方法
日本では現在も「バタリーケージ」が90%を占めていますが、欧州では2012年に「バタリーケージ」を廃止し、現在はエンリッチドケージの廃止とケージフリーを推進しています。
バタリーケージは生産性に優れている一方、鶏の「つつき行動」「砂遊び」「止まり木に止まって眠る」「巣の中で卵を産む」といった本来の行動欲求を満たせません。このストレスが病気や鶏同士のつつき合いによるケガのリスクを高め、死亡率も最も高くなっています。
宮城県食肉衛生検査所の調査研究では「と畜場搬入豚のストレス評価とアニマルウェルフェア向上の検討」が行われるなど、日本でも少しずつ取り組みが進んでいます。しかし、欧米に比べるとまだまだ遅れていると言わざるを得ません。
薬剤耐性菌発生を防ぐための具体的アプローチ
薬剤耐性菌の発生を防ぐために重要なのは、動物のストレスを減らし免疫力を高めることです。具体的には以下のようなアプローチが効果的です:
- 適切な飼育密度の確保(過密飼育の解消)
- 清潔で快適な環境の提供
- 自然な行動が可能な設備の導入
- 質の高い飼料と新鮮な水の確保
- 予防的な健康管理プログラムの実施
- ストレスを最小限に抑える取り扱い方法の採用
これらの取り組みにより、動物の免疫力が向上し、病気にかかりにくくなります。その結果、抗生物質の使用量を大幅に削減できるのです。
どうですか?動物の幸せと人間の健康が密接に結びついていることがわかりますね。
ワンヘルスからワンウェルフェアへ:統合的アプローチの重要性
近年、「ワンヘルス」という考え方が注目されています。これは人間の健康と動物の健康、さらに生態系の関係を一体として捉える統合的な取り組みです。特に新型コロナウイルスのパンデミック以降、人獣共通感染症の観点からこの考え方が広く認知されるようになりました。
そして現在、このワンヘルスの考え方がさらに発展し、「ワンウェルフェア」という新たな概念が生まれています。これは人間と動物、環境の福祉を統合的に考えるアプローチです。
福岡県では2016年から全国に先駆けてワンヘルスの推進に取り組み、2020年には「福岡県ワンヘルス推進基本条例」が制定されました。このような統合的なアプローチが、薬剤耐性菌問題の解決にも不可欠です。
株式会社アニマルウェルフェアは、「人のため地球のためどうぶつたちのために」をスローガンに掲げ、まさにワンウェルフェアの理念を実践しています。アニマルウェルフェアを促進することで、「人」「動物」「地球環境」が健康で笑顔になることを目指しているのです。

企業の取り組み:株式会社アニマルウェルフェアの挑戦
株式会社アニマルウェルフェアは、日本初のアニマルウェルフェア専門企業として、様々なサービスを提供しています。
多様なサービス展開
同社のサービスは多岐にわたります:
- AW審査認定:AW認定獣医師が畜産動物と畜産環境を審査し、認証を付与
- AW認定商品開発支援:AW認証を受けた食材を使った商品コンセプトの提案
- アニマルウェルフェア講座・資格:正しいAWの知識普及のための教育プログラム
- AW促進のためのAI開発・販売:動物の生活環境改善に活かすAI商品の開発
- AW商品販売オンラインショップ:AW認証製品の販売プラットフォーム
- AW認定審査員の認定資格付与:獣医師向けの認定資格制度
これらの取り組みを通じて、アニマルウェルフェアの普及と定着を図っています。
AWがもたらす多面的なメリット
アニマルウェルフェアの向上は、動物だけでなく人間にも様々なメリットをもたらします:
- 食の安全性向上:AWに配慮した環境で育った動物の肉・卵・ミルクは健康的で美味しい
- 薬剤耐性菌の抑制:抗生物質使用量の削減により、薬剤耐性菌の発生リスクを低減
- 環境負荷の軽減:資源の無駄を減らし、地球環境にも優しい
- ブランド価値の向上:畜産業者の信頼性やブランド価値の向上につながる
- 従業員のプロ意識向上:動物と真摯に向き合うことで職場環境も改善
特に薬剤耐性菌対策としては、AWの向上により動物の免疫力が高まり、病気にかかりにくくなるため、抗生物質の使用量を自然と減らすことができます。これは「抗生物質の責任ある使用」の実践そのものです。
AWに取り組む畜産業者からは「病気が減った」「動物の状態が良くなった」「薬のコストが下がった」といった声も聞かれます。まさに動物と人間、そして地球環境の三方よしの取り組みと言えるでしょう。

私たちにできること:消費者としての選択と行動
薬剤耐性菌問題とアニマルウェルフェアの向上は、政府や企業だけの問題ではありません。私たち消費者にもできることがたくさんあります。
まずは知ることから始めましょう。アニマルウェルフェアや薬剤耐性菌について正しい知識を身につけることが第一歩です。
そして、日々の消費行動を見直してみましょう。例えば:
- 可能な限りアニマルウェルフェア認証を受けた畜産物を選ぶ
- 肉の消費量を見直し、質の高い畜産物を適量いただく
- 食品ロスを減らし、命をいただくことへの感謝の気持ちを持つ
- 生産者の取り組みを知り、応援する
私たち一人ひとりの選択が、市場を動かし、生産者の行動を変える力になります。
あなたの選択が未来を変える!
あなたは今日からスーパーで外食でネットショッピングで何を選びますか?
アニマルウェルフェアと薬剤耐性菌対策は、動物と人間と地球の健康を守るための重要な取り組みです。この問題に関心を持ち、行動を起こすことで、より良い未来を創ることができるでしょう。
アニマルウェルフェアの理念に基づいた畜産のあり方は、薬剤耐性菌問題の解決だけでなく、持続可能な食の未来を築くための鍵となります。動物が健康で幸せに暮らせる環境は、結果的に私たち人間の健康も守ってくれるのです。
詳しいアニマルウェルフェアの取り組みや認証制度については、株式会社アニマルウェルフェアのウェブサイトをご覧ください。アニマルウェルフェアの実現に向けた第一歩を、今日から始めてみませんか?