アニマルウェルフェアとは?動物福祉の本質を理解する

「アニマルウェルフェア」という言葉を聞いたことがありますか?

日本語では「動物福祉」と訳されることが多いですが、単なる動物愛護とは一線を画す概念です。アニマルウェルフェアとは、人間と共に生きる動物たちが不必要なストレスなく健康に一生を過ごせるよう、適切な飼育環境を提供することを意味します。つまり「適切な飼い方」そのものなのです。

国際獣疫事務局(WOAH、旧OIE)では、アニマルウェルフェアの基本原則として「5つの自由」を定義しています。

  • 空腹・渇きからの自由:栄養や水の不足を避ける
  • 不快からの自由:施設や設備を整備し、飼育環境を改良する
  • 痛み、外傷、病気からの自由:疾病や怪我の予防、早期治療など
  • 正常行動の発現の自由:本来その動物が持つ正常行動が適切に発現できるようにする
  • 恐怖、苦悩からの自由:心理的な苦悩を避ける

これらの自由は、動物が生きていく上で最低限必要な条件であり、健康で幸福に生活するための基盤です。

しかし、株式会社アニマルウェルフェアが目指すのは、これら5つの自由を満たすだけではありません。「喜び」の経験を増やし、QOL(Quality Of Life:生活の質)を向上させることまでを視野に入れています。

生産効率vs動物福祉:なぜ両立が必要なのか

20世紀までの畜産においては、多くの場合、生産効率や経営効率の向上が最優先され、動物のストレスなどアニマルウェルフェアに関連する問題はなおざりにされてきた感は否めません。

この背景には、多くの農家や関係者の間で「アニマルウェルフェアに配慮することと生産効率の向上との間にはトレードオフ関係(両立できない関係性)がある」という思い込みがあったためです。

しかし、最近の研究では、むしろ逆の結果が示されています。アニマルウェルフェアに配慮した飼育方法は、長期的に見れば生産性の向上につながるのです。

なぜでしょうか?

ストレスの少ない環境で育った動物は、免疫力が高く、病気になりにくいため、抗生物質などの薬剤使用量を減らすことができます。これは薬剤耐性菌の発生抑制にもつながる重要なポイントです。

また、自然な行動がとれる環境で育った動物は、異常行動(羽つつき、尾かじりなど)が減少し、怪我や死亡率の低下にもつながります。これは生産者にとって大きなメリットとなります。

さらに、アニマルウェルフェアに配慮して育てられた動物からは、より健康的で美味しい食品が得られることも分かってきました。消費者の満足度向上と、それに伴う付加価値の創出は、生産者の収益性向上に直結します。

つまり、アニマルウェルフェアと生産効率は対立するものではなく、むしろ相乗効果を生み出す関係にあるのです。

日本のアニマルウェルフェア現状:世界から遅れをとる理由

世界動物保護協会(World Animal Protection)の動物保護指数(API)によると、日本は2020年版でアニマルウェルフェアの法規制にかかる6項目のうち5項目が最下位となっています。特に畜産動物の保護等にいたっては最低のG評価です。

なぜ日本はこれほどまでに遅れをとっているのでしょうか?

一つには、日本では畜産に関するアニマルウェルフェアへの一般の関心が低いままであることが挙げられます。消費者の多くは、食肉や卵、乳製品がどのような環境で生産されているかについて知る機会が限られています。

また、生産者や政府も国内規制において対応が必要なことを認識しながらも、厳しい規制の導入に対して二の足を踏んでいる状況があります。導入コストの高さや、国際競争力への懸念などが理由として挙げられることが多いでしょう。

しかし、中長期的には、生産者として世界的な規制強化への流れを無視するわけにはいきません。例えば、IKEAのような国際企業は、2025年までに日本を含む世界の店舗でアニマルウェルフェアに配慮した「ベターチキンプログラム」の基準達成を目指しています。

このプログラムでは、鶏が自然光や新鮮な空気の中で、羽を広げられ、自由に動くことができる十分なスペースや止まり木があるなど、鶏が自然な行動を行える環境を推奨しています。

こうした国際的な潮流に乗り遅れることは、日本の畜産業の将来に大きなリスクをもたらす可能性があります。

アニマルウェルフェアがもたらす3つの価値:動物・人間・地球環境

アニマルウェルフェアの取り組みは、動物だけでなく、人間や地球環境にも大きなメリットをもたらします。

動物へのメリット

まず何より、動物たち自身の生活の質が向上します。ストレスの少ない環境で、本来持っている行動を自由に発現できることは、動物の身体的・精神的健康に直結します。

例えば、ブロイラー(食用若鶏)の場合、適切な環境を提供することで、空気質の悪さによる呼吸器系の問題や、栄養素の欠如による病気、成長速度の低下などを防ぐことができます。

豚の場合、妊娠ストールと呼ばれる狭い檻での飼育から解放されることで、母豚のストレスが大幅に軽減され、健康状態が改善します。香川県・徳島県に位置する七星食品のような先進的な養豚場では、すでに妊娠ストールフリーの取り組みが進められています。

人間へのメリット

AWに配慮した環境で育った動物の肉・卵・ミルクは健康的で美味しくなります。これは人間の食の安全性向上にも直結するのです。

また、健康に育てることで薬(特に抗生物質)の使用量を減らすことができ、薬剤耐性菌の発生を抑制します。これは人間の健康にとっても重要な意味を持ちます。

さらに、畜産業者にとっては、AW認定により信頼性やブランド価値の向上につながります。例えば、シャトレーゼのような企業は自社で放牧養鶏を始め、その卵を使った商品開発を行うことで、付加価値の創出に成功しています。

従業員のプロ意識向上や職場環境の改善、優秀な人材確保にも寄与するため、企業としての持続可能性も高まります。

地球環境へのメリット

アニマルウェルフェアに配慮した飼育方法は、資源の無駄を減らし、環境負荷を軽減します。例えば、適切な飼料管理により、飼料の無駄遣いを減らすことができます。

また、動物の健康状態が改善されることで、廃棄される動物の数が減少し、資源の有効活用につながります。

このように、アニマルウェルフェアは「人」「動物」「地球環境」の三者が健康で笑顔になれる取り組みなのです。

企業におけるアニマルウェルフェアの実践:先進事例から学ぶ

日本でも少しずつアニマルウェルフェアに取り組む企業が増えてきています。その先進的な事例から、私たちは多くを学ぶことができます。

食品メーカーの取り組み

キユーピー株式会社は、2024年に欧米では使用するすべての卵をケージフリーにすること、グローバルでは2027年までにマヨネーズに使用する卵を20%ケージフリーにすること、そして日本では2030年までにマヨネーズに使用する卵の20%にあたる量をケージフリーで調達し、さらにケージフリーの市場拡大を目指すことを明らかにしました。

これにより数十万羽の鶏がケージから解放されることになります。大手企業がこうした方針を打ち出すことは、業界全体に大きな影響を与えるでしょう。

製菓企業の挑戦

株式会社シャトレーゼは、自社で放牧養鶏を始め、その卵を使ったプリンの販売を『YATSUDOKI』のブランドで開始しました。大手製菓企業が自社内で養鶏を始めるという新たな方法で、放牧という世界水準を超えるアニマルウェルフェアに取り組んでいます。

放牧4万羽という規模は決して小さくなく、ケージフリー卵の需要増加に対し、十分な供給ができない状態の国内養鶏業界に一石を投じています。

養豚業界の動き

七星食品は香川県、徳島県に位置する養豚場で、国際的なアニマルウェルフェアをいち早く取り入れ、妊娠ストールフリーに取り組んできました。2025年には、残りの母豚の妊娠ストール豚舎もストールフリーに建て替えることを決定しています。

このような中小規模の生産者の取り組みは、大手企業だけでなく、日本全体の畜産業のアニマルウェルフェア向上に大きく貢献しています。

アニマルウェルフェアの未来:日本が進むべき道

日本のアニマルウェルフェアは、まだ始まったばかりです。しかし、世界の潮流を見れば、今後ますます重要性が高まることは間違いありません。

では、日本はどのような道を進むべきでしょうか?

消費者の意識改革

まず必要なのは、消費者の意識改革です。私たちが食べる肉や卵、乳製品がどのような環境で生産されているのかに関心を持ち、アニマルウェルフェアに配慮した製品を選ぶことが重要です。

あなたは今日食べた卵が、どのような環境で育った鶏から得られたものか知っていますか?

一人ひとりの小さな選択が、市場全体を動かす大きな力となります。

生産者への支援

アニマルウェルフェアに配慮した生産設備への転換には、大きなコストがかかります。生産者が二の足を踏むのは当然のことでしょう。

しかし、長期的に見れば、これは必要な投資です。国や自治体は、この転換期に必要な資金支援を十分に行うべきでしょう。農林水産省も指針を発表しており、クロスコンプライアンスでの補助金にも触れていますが、もっと積極的な支援の実施が早急に必要です。国は世論の醸成無くして、やっても意味がないようなニュアンスでの牛歩的な歩みですが、やる気のある生産者を支援しAW畜産物が流通し、スーパーなどで国民に選択肢の用意が無くして、どう世論の醸成が成り立って行くのでしょうか?卵か鶏かどちらが先ではなく、国民世論への普及活動と、生産者への支援は同時並行で行わなければならないと私は考えています。

また、株式会社アニマルウェルフェアのような専門企業によるコンサルティングや認証制度も、生産者の取り組みを後押しする重要な役割を果たします。

企業の責任ある調達

食品企業にとっては、今後予想される投資家サイドからの圧力の高まりへの対応が必要です。ESG投資の観点からも、アニマルウェルフェアへの取り組みは避けて通れない課題となっています。

BBFAWのランキングを気にする企業や、ESG投資に敏感な個人投資家や海外ファンドへのアピールとしても、アニマルウェルフェアへの取り組みは重要です。

また、政府が推進する畜産物の輸出拡大や、訪日客に「食」をアピールするためにも、畜産のアニマルウェルフェア対応は欠かせません。

まとめ:アニマルウェルフェアは未来への投資

アニマルウェルフェアは、単なる動物愛護の観点だけでなく、人間の健康、企業の持続可能性、地球環境の保全など、多面的な価値を持つ取り組みです。

消費者、生産者、食品企業に共通して言えるのは、いずれもが動物を苦しませたいわけではないということ。だからこそ、一時的な多額投資の必要性がアニマルウェルフェアの向上を阻んでいるのであれば、国や自治体等はそのために必要な資金支援を十分に行うべきでしょう。それは国が目標としている農林水産物の輸出額5兆円という国益に対して、遅れている日本がいち早くグローバルスタンダードであるアニマルウェルフェアにしっかりと対応しなければ、その輸出そのものへ不利益が生じるリスクが迫ってきていると考えざるを得ないのです。

アニマルウェルフェアへの取り組みは、動物たちの生活の質を向上させるだけでなく、私たち人間の食の安全性や健康、そして地球環境の持続可能性にも大きく貢献します。

今こそ、生産効率だけを優先するのではなく、動物福祉と生産効率の両立を目指す時です。それは、動物にとっても、人間にとっても、地球環境にとっても、Win-Winの関係を築く唯一の道なのです。

アニマルウェルフェアに関する詳しい情報や、認証取得のサポートについては、株式会社アニマルウェルフェアにお問い合わせください。動物と人間と地球環境が健康で笑顔になれる未来のために、一緒に一歩を踏み出しましょう。